東京のはしっこで生きている女のブログです

【人を好きになるということ】武者小路実篤『友情』【情けなくてもいいじゃない】

今から百年ほど前に書かれた、三角関係を描く正統派の青春小説です。

※ネタバレ感想です(冒頭でネタバレするタイプの小説です)

登場人物

野島(23才) いまだ世に認められぬ小説家。運動できない。身体が弱い。

大宮(26才) 小説家として成功しつつある。家にお金がある。思いやりがある。運動できる。みんなに慕われている。

杉子(16才) ヒロイン。性質は無邪気。快活。人を愉快にさせる。身体が随分いい(※文中まま、健康ということだと思います)らしい。
野島と大宮のスペックの差、書いていて辛い…

ざっくりあらすじ

野島と大宮は親友同士で、お互いに尊敬しあう良き友だった。

ある日、野島は同級生の妹である杉子に一目惚れする。

杉子に夢中になった野島はことあるごとに大宮に恋の相談をする。

大宮は野島を応援し杉子とくっつくように頑張っていたが、実は自分も昔から杉子に惹かれており、最終的に杉子からの求愛に耐えられずに応えてしまう。

前半戦:野島の気持ち悪さが冴えわたる

この話は前半と後半で構成されており、前半は主に恋に恋する乙女と化した野島にフィーチャーされています。

野島はこれがおそらく初めての恋なのでしょうか、杉子を想う様がときおりストーカーっぽくもあり、読んでいる人をぞっとさせます。

ちょっと気持ち悪いナ~と思った所を引用

レベル1 ★☆☆

新聞を見ても、雑誌を見ても、本を見ても、杉という字が目についた。そして目につくとはっとした。しかし彼はまだ殆んど杉子とは一言も言葉を交さなかった。

出典:武者小路実篤『友情』

彼はまだ殆んど杉子とは一言も言葉を交わさなかった。怖い怖い。

でも、相手の名前の文字になんか反応してしまうっていうのは、恋する人あるあるではないでしょうか?

レベル2 ★★☆

うまくいって無邪気によろこぶ時の口のまわり、前にこごみ、手を逆にして打つ時の腕の形、~略~、彼はそれをむさぼるように見つめていた。自分はどんなことがあっても杉子を失うわけにはゆかない。

出典:武者小路実篤『友情』

野島、めっちゃ見てるね~。

口のまわりって、結構マニアックなところ見てるな~。

もう、杉子がこの世に存在していることを確かめずにはいられないって感じですね。

そして、まだ手に入れたわけでもないのに失う心配をしていますね。

レベル3 ★★★

「馬鹿!」野島はそう心で云った。「あんな女は豚にやっちまえ、僕に愛される価値のない奴だ。」

出典:武者小路実篤『友情』

ここでも天性のストーカー気質を存分に発揮しています。

杉子のことあんな女呼ばわりしています。僕に愛される価値のないやつとまで…!

杉子を手に入れている体(てい)で話をしているところは相変わらずですね。

引用番外編

野島は運動神経が良くなく、杉子と卓球をしても負かされてしまいます。

「ピンポンがまずいと云うことは恥ずべきことではない」
彼はそんな言い訳をして見たが、うまかったら、今感じているようなひけ目を感ぜずに、決まりのわるい程、腹のうちで得意になりそうな気がした。まずいので反って軽薄な根性を露骨に出さずにすむと思ったが、うまかったらこだわらずに、ますます得意になれたような気がして残念な気がした。

出典:武者小路実篤『友情』

卓球1つでくどくど考えすぎ(そんなこと考えながらやってるから運動できないんだよ)。

野島を見ていると、なぜか自分の羞恥心が刺激されます…。

おそらく、野島の持っている、やけに高いプライドや自信、思い込みは誰もが少しは持っている(持っていた)ものだからじゃないかと。

自分で隠しているもの、成長して乗り越えたと思ったものを、野島はこれでもかこれでもかとこちらの目の前に繰り出してくるので、こちらの羞恥心が刺激され、やるせない気持ちになるのではないかと…。

これを含めて青春なんですかね~。

 

後半戦:杉子の切れ味が冴えわたる

後半は、自分がもし野島だったら、自分の目を潰して一生文字を読めなくするかもというレベルの、杉子と大宮の手紙のやりとりで構成されています。

杉子さん、もーキレッキレです!

杉子から大宮への手紙の、心をえぐる部分を引用

レベル1 ★☆☆

野島さまが私を愛して下さったことを私は正直に申しますと、ありがた迷惑に思っております。

レベル2 ★★☆

どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです。

レベル3 ★★★

ですが、私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります。

出典:武者小路実篤『友情』

はい、説明は不要ですね。

野島のことは生理的に無理っていうことをあらゆる言い回しで主張しております。

杉子も、愛する大宮がなんとも思っていない野島に自分を譲ろうとしているもんだから必死です。

それにしても杉子は野島に対して時おり優しく接しているように見えるんだから、女ってやつの恐ろしいところがちゃんと描かれていますよね…。

野島のことをちゃんと見抜いているなと思うのが、 以下の文

野島さまのことをかくのはいやですが、野島さまは私と云うものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを賛美していらっしゃるのです。

出典:武者小路実篤『友情』

(書くことですら嫌…w)

そうなんですよ。

野島がしているのは<相手不在>の恋なんです。

杉子の幻想を勝手に作り上げてそれにのめり込みすぎてしまっている。

杉子にだって良いところもあれば悪いところもある。

それを分かろう、もっと相手のことを知ろうという努力もせずに、好きだ好きだと言ってくる。

アイドルとファンのような関係。杉子にもそれはわかっていたんですね。

意外とこういう恋って、相手の思っていたのと違う側面を見ただけで勝手に幻滅したりするんじゃないかと思ったりするんですがどーでしょうか。

 

大宮はやるとなったら徹底的にやる男

さぁ、大宮のターンです。

下編の大宮と杉子の手紙のやりとり(杉子「まじで野島が嫌だし私はあんたと居たいんや」)は、なんと雑誌に掲載されているというのだから驚きです。

そして大宮はその雑誌を野島に送りつけるという方法で大宮と杉子の関係を知らしめるわけです。

大宮よ、ここまでの爽やかキャラから一転、やり方がえげつなくない?

野島に報告する術として、本当にそのやり方しか思いつかなかった?

いえ、大宮と野島は親友だからこそ、ここまでしないとだめだと考えたのかもしれません。

叩きのめしてもなお、絶対に這い上がって来てくれるという信頼があるからこそ(欲しくないそんな信頼)。

 

野島の挫折と成長

野島は見事にその信頼に応えて、大宮への手紙でこう書いています。

死んでも君達には同情してもらいたくない。僕は一人で耐える。そしてその淋しさから何かを生む。見よ、僕も男だ。参り切りにはならない。
君よ、僕のことは心配しないでくれ、傷ついても僕は僕だ。

出典:武者小路実篤『友情』

野島、かっこいいですよね! 胸が熱くなりました。

さんざん気持ちが悪いとか、だから運動が出来ないんだとか言ってごめん。

そしてそのあと泣きながら自分の日記にあることを書いて、話は終わるんです。

 

それを読むと、

…のじまあぁぁぁーー!!!

ってなります(ぜひ読んでみてくださいw)。

大宮へ手紙で書いたことは野島の精いっぱいだったんだ…。

でも、野島ならこの経験を糧に作家として大成してくれるんでしょうきっと!

 

タイトルについて考えさせられる

最初は気持ち悪いと思っていた野島が愛しくなり、その後を応援したくなるお話でした。

途中までかなり頑張ったものの、結局は親友が恋する女性の求愛に応えてしまったお話の題名が『友情』とはどういうことなのか

人を好きになるということはどういうことなのか。

どのキャラクターに感情移入するかで違う感想が出てくると思います。私は杉子に感情移入しているときは野島が邪魔でしょうがなかったです笑。

昔独特の回りくどい言い回しがあったりして楽しみながら、薄い本なのでさくっと読めます。

最近は武者小路実篤読んでるんだ~って言うと玄人感も出せますよ!

夏休みの読書にいかがでしょうか~?

 

2件のコメント

  1. 14歳がすみません

    武者小路実篤は有島武郎らとともに
    『白樺派』として活躍してきた小説家です。
    よく考えてみればこのような恋愛小説って
    結構あるんですよね。
    100年も前から似たような話があるなんて
    ちょっと驚きですよね。
    もっと言ってしまえば、1500年ほど前の
    『とりかえばや』も同じことが言えるでしょう。
    結局、日本人はいつの時代も似たような話が
    好きなのでしょうね。

    • うめこ

      14歳がすみませんさん
      お返事遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m
      14歳がすみませんさんは実年齢が14歳でいらっしゃるのでしょうか、、?
      だとしたら倍以上生きている私が恥ずかしくなるくらいの
      思慮深く素敵なコメント本当にありがとうございます。
      恥ずかしながら『とりかえばや』は最近の少女漫画だと思っていました!
      1500年も昔の、男女逆転話なんですね、、!
      面白そうなので、漫画で読んでみたいと思います
      また読書感想など書こうと思っているので、懲りずにまた見に来てくださいね~~
      ありがとうございました(*^^*)

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